「ったく、アイツどこにいるんだよ」
ゲームのルール上、アリスの近くに行くわけにはいかない。
ってことは、必然的に帽子屋に近づくわけにもいかない。
ストーカーで有名なニャンコに尋ねようとしても、いつもフラフラしてるからどこにいるかわからない。
…となると、自分の足で探すしかないんだけど、当てもなく歩いて見つかるかどうかもわからない。
…なんかわかんないだらけじゃん
「あーっ、もう!なんで僕がこんな事しなきゃいけないだよっ!!」
立ち止まり、思わず手に持っていたものを地面に叩きつけようとして…止めた。
振り上げた花もどきからふわりと香るのは、人口的な香り。
なんでこんなもの作ったのか、用意したのか…よくわからない。
でも、その人口的な香りが、苛立った心をほんの少しだけ落ち着かせてくれた。
「…もう少しだけ、探してみようか…な」
振り上げた花を下ろし、再び当てもなく歩き始める。
アリス達に遭遇しないよう注意しながら、歩き始めて数十分…やはりどこにもアイツの姿はない。
目の前に、厳選百景その44【涙の池はコチラ】…の看板を見つけて、足を止める。
「アイツ…まさかまた、厳選百景巡りとかしてないよな」
以前会った時、厳選百景を全部見たら願いが叶うとかなんとか言ってたけど、そんなの明らかに嘘だろう。
だって、僕、そんなルール作った覚えないし?
アイツがそんなルール作るとも思えないし。
でも、そんな明らかな嘘でも…アイツは、やってみなきゃわからないって言うんだ。
おかしなヤツ…なんで、ここに来たんだよ。
どうしてここに来たヤツが、そんなに…前向きなんだ。
「はぁ〜〜〜〜〜…しょーがない、一応行って……」
「ウサちゃん♪」
突然ポンッと肩を叩かれたことで、反射的に刀に手が伸び、そのまま振り向いた。
すると、そこにいたのは…
「…………」
「こ、こ……こんにち……は」
切っ先が彼女ののど元に突きつけた状態で止まってる。
あと少し力が加わっていれば、きっと鮮血が飛び散っていただろう。
「あのさぁ、僕言わなかった?背後から声、かけるなって」
「な、何度か声かけたんだけど、考え事してたみたいだから…」
――― よかった
はじめて…ではないけれど、久し振りにホッと胸を撫で下ろす感覚を感じつつ、充分注意しながら刀を下ろして鞘に戻す。
「………あ、そう…で、何か用?」
「特に用って訳でもないんだけど、見かけたからご挨拶しようと思って」
「へぇ〜…相変わらず、律儀だね、は」
「そう?」
「そうだよ。大体、見かけたヤツに挨拶ばかりしてたら面倒だろ?もしかして未練にも挨拶してたりするんじゃないよね」
「んー…さすがに、それは…」
「目が泳いでるってことは、挨拶したこと……あるんだろう」
「あ、あはははは…」
「…お前、いつかアリスに殺されるぞ」
「怒られてばっかだよ」
何気ない話をしつつ、いつ、後ろ手に隠しているものを渡そうかタイミングを計る。
――― 計る?
計るってなんだよ。
なんで、僕がそんな面倒なことしなきゃなんないんだ!?
たかが、イレギュラーでやって来たヤツのために、どーして僕がそこまで気遣う必要がある。
頭に一気に血が上り、隠していたものをそのままの前に差し出した。
「やるっ!!」
「え?」
「お前、今日誕生日なんだろう!」
「ど、どうして…」
「僕が知らないことなんてあるわけないだろっ!!」
それは ――― ウソだ
たまたま三月が、眠りネズミとの話を聞いていて…それを、僕に教えてくれた。
だから…今日がの誕生日だってのを、知ったんだ。
誕生日当日ってこともあって、プレゼントの用意も間に合わない。
どうしようかと、部屋の中をうろうろしてたら…山積みにしてた布が手に触れた。
その中にあったヤツが、凄い柔らかく…綺麗で、なんかみたいだって思った。
だからそれで花を作って…香水を、一滴垂らした。
ニセモノの国の…ニセモノの花
でも、その白さは、どこかバカ正直で騙されやすいに似てる。
「どうなんだよっ!いるのか?いらないのかっ!」
「い、い、いります!」
「だったらとっとと受取れよ!」
胸に押し付けるようにして渡せば、の手が微かに僕の手に触れた。
その手の温かさに驚いた瞬間、花を持っていた手の力が緩んだ。
「……あ」
彼女の手に渡る前だった花が、軽い音を立てて地面に落ちた。
「ご、ごめん、ウサちゃん!」
違う…僕が、先に手を離したんだ。
お前の手が…あんまりにも、温かくて…火傷…しそうなくらい、熱かったから。
触れた手をもう片方の手で握っている間に、が落ちた花を拾い上げて驚きの声をあげた。
「凄い…これ、造花!?」
「…そーだよ」
「もしかして、これ…手作り?」
「そうだよ!悪いかっ!!」
「すっごーいっ!ウサちゃんって、器用なんだね!」
キヨウ…?
こんなものぐらい、誰でも作れるだろう?
「こんなに柔らかくて優しい香りの花なんて、はじめて…」
一度、地面に落ちたのに
土に触れて、汚れたってのに
…それにも構わず、そんな顔で…触れるなよ
なんだか…胸の奥が、痛いだろ
「どうもありがとう、ウサちゃん」
「…………べ、別に…たまたま、作って…たまたま持ってただけだからな」
言ってることが支離滅裂になっているってわかってるけど、なんか落ち着かないんだよ!
お前はアリスとは別の意味で、僕を惑わして落ち着かなくさせる。
「ありがとう、ウサちゃん」
「き、気に入った…の、か?」
「うんっ!とっても!!」
落ち着かない ―――
でも…
お前の笑顔は、結構好き…だ、な
「そっか、だったらまた作ってやってもいいぞ」
「ホント?」
「あぁ、お前、何色が好きだ?」
誕生日プレゼント代わりに渡した花
お前が気に入ったなら、また、次の誕生日に作ってやる
だから、ここに…いればいい
全てが狂った、この国に…
お前がいれば、ほんの少し…この国を、ゲームを ――― 楽しめる気が、する
今年の誕生日で、初めてAre you Alice?のキャラのほぼ全員を使って書いた
一応、連続する話……です。
UPするために、コメントとタイトルを考え直しました。
ウサちゃんは情緒不安定なので、ころっころ態度が変わってしまいます。
揺るがない気持ちというか、奥底にあるのはただひとつ。
それだけはしっかり持っていて、それ以外は……って感じです(どんなやねん)
誕生日を祝ってくれているのに、なんだか凄い切ない感じですね(苦笑)
でも、それがどこかAre you Alice?の世界って勝手に思ってます…はい。
何気に好きな…というか印象的な台詞は…
ニセモノの国の…ニセモノの花ってヤツ…なんか、読み返してて印象に残った。
決して色はつかない。
つくとしたら白と黒と…灰色、そして鮮血の鈍い赤ってとこ。
Are you Alice?関係を書く時は、くっきりした色が頭に浮かばないよう気をつけてます。